葬儀の祭壇中央、ご遺影の前に静かに置かれ、故人の魂そのものを象徴する最も重要な仏具、それが「位牌(いはい)」です。位牌は、故人の魂が宿る場所、すなわち「依り代(よりしろ)」とされ、残された家族が故人を偲び、語りかけ、供養を行うための、礼拝の対象となります。葬儀の場で用いられるのは、通常、白木(しらき)で作られた「仮位牌(かりいはい)」または「内位牌(うちいはい)」と呼ばれるものです。白木が使われるのは、まだ故人の魂がこの世とあの世の間をさまよっている状態であり、俗世の汚れがない清浄な状態を象徴しているから、と言われています。この白木の位牌の表面には、僧侶から授かった仏弟子としての新しい名前である「戒名(かいみょう)」または「法名(ほうみょう)」が墨で大きく書かれています。そして、裏面には、故人がこの世で生きていた時の名前である「俗名(ぞくみょう)」と、亡くなった年月日(没年月日)、そして亡くなった時の年齢(享年または行年)が記されます。この仮位牌は、葬儀から四十九日の法要まで、自宅の後飾り祭壇(中陰壇)に安置され、家族は毎日、水や食事を供え、線香をあげて故人を供養します。そして、故人の魂が無事に成仏するとされる四十九日の忌明け法要までに、漆塗りなどで作られた「本位牌(ほんいはい)」を準備します。法要の際に、僧侶の読経によって、仮位牌に宿っていた故人の魂を本位牌へと移し替える「魂入れ(たましいいれ)」または「開眼供養(かいげんくよう)」という儀式が行われます。この儀式を経て、本位牌は正式に故人の魂の依り代となり、その後、家の仏壇に安置され、永きにわたって家族の祈りの対象となるのです。位牌は、単なる名前が書かれた木の札ではありません。それは、故人の存在そのものであり、目には見えなくなった大切な人と、残された家族の心を繋ぎ続ける、かけがえのない架け橋なのです。