先日、92歳で大往生を遂げた祖父の葬儀を執り行いました。頑固一徹ながらも家族思いだった祖父を送る際、私たちはある1曲を流すことに決めました。それは、祖父が晩年、晩酌をしながらいつも口ずさんでいた古い演歌でした。最初は「葬儀に演歌はどうなのだろう」と親戚の間でも意見が分かれましたが、長男である父が「親父が一番好きだった曲で送り出したい」と強く主張し、結果としてその曲が式場に流れることになりました。通夜の静寂の中に、あの独特の哀愁漂うイントロが響いた瞬間、会場の空気が一変したのを今でも覚えています。それまで神妙な顔をしていた参列者の方々が、曲を聴いた途端に祖父の笑顔を思い出したのか、会場のあちこちからすすり泣く声とともに「ああ、これがあの人らしいな」という囁きが聞こえてきました。音楽には、一瞬で記憶の扉を開く魔法のような力があります。歌詞の一節一節が、祖父が苦労して家族を養ってきた時代背景や、趣味の釣りに熱中していた姿、そして孫の私を可愛がってくれた時の優しい眼差しを鮮明に蘇らせてくれました。特に、出棺の際にボリュームを上げたサビの部分では、私たち家族だけでなく、近所の方々も一緒に涙を流しながら見送ってくれました。それは、単なる儀式を超えた、魂と魂が触れ合うような濃密な時間でした。もし、どこにでもあるような無難なクラシックを流していたら、これほどまでに豊かな感情が溢れることはなかったでしょう。音楽葬とまではいかないまでも、このように故人の個性を反映させた楽曲を取り入れることで、葬儀は単なる悲しみの場から、故人の人生を祝福する場へと昇華されるのだと痛感しました。準備の段階では、CDを探し出すのに苦労したり、再生機器の操作を葬儀社の方と何度も確認したりと大変なこともありましたが、その苦労もまた、祖父への最後の親孝行のように感じられました。音楽は、形のない贈り物です。目には見えませんが、その場の全員の心を1つに結びつけ、去りゆく者への深い尊敬の念を共有させてくれました。今でもその曲を耳にするたびに、真っ白な花に囲まれて安らかに眠る祖父の顔と、あの日会場を包んだ温かな光を思い出します。楽曲選びの大切さを、私は祖父の葬儀を通じて身をもって学んだのです。
祖父の旅立ちを彩った懐かしのメロディと涙の記憶