多くのマナー講習を行ってきましたが、葬儀の際の持ち物について「胸ポケットにハンカチを差すべきですか」という質問は非常に頻繁に受けます。私の答えは常に、「差すのであれば、完璧に。自信がなければ差さない方が良い」というものです。中途半端な知識で不適切な挿し方をしてしまうと、かえってマナーを知らない人物だという印象を与えかねないからです。葬儀という場所は、誰もが非常に繊細な心理状態にあります。そのような場での過剰な装飾や、ルールを無視した身だしなみは、周囲を不快にさせるリスクを孕んでいます。まず、選ぶべきハンカチについてお話ししましょう。葬儀用として販売されているものもありますが、基本的には白の無地、素材は麻か綿を選んでください。麻は吸水性には劣りますが、ハリがあるため形を保ちやすく、胸元を美しく見せてくれます。次に挿し方ですが、これは「TVフォールド」と呼ばれる手法に限定されます。ハンカチを何度も折り畳み、胸ポケットの幅ぴったりに合わせるのがコツです。よくある失敗は、ポケットの中でハンカチが沈んでしまい、式中に何度も指で引き出さなければならなくなるケースです。これを防ぐためには、ポケットの深さに合わせて厚紙を中に入れるか、ハンカチの下の部分に別の布を詰めて底上げをするというテクニックがあります。ただし、そこまでして見せる必要があるのは、あくまでも「自分を律している」というメッセージを届けるためです。また、最近では黒いハンカチを胸ポケットに差すのがおしゃれだと思っている若い方も見受けられますが、これは日本の伝統的な葬儀マナーとしては推奨されません。黒は喪の色ではありますが、胸元に差すチーフとしての歴史は白が圧倒的に正統です。また、1枚のハンカチを共有して使うことも避けましょう。夫婦で参列する場合など、夫の胸元に差したものを妻が涙を拭くために借りるというのは、マナーとしては美しくありません。それぞれが自分専用の、用途に応じたハンカチを持つことが大切です。身だしなみは、自分のためではなく相手のために整えるもの。その原点に立ち返れば、胸ポケットのハンカチが持つ重みが理解できるはずです。控えめで、かつ整然とした胸元の白は、悲しみの席における最も美しい礼儀の1つなのです。
マナー講師が語る葬儀のハンカチ選びと挿し方