葬儀や告別式に参列すると、儀式の中心として行われるのが「焼香」です。この焼香には、いくつかの作法がありますが、現代のほとんどの葬儀会館や斎場で採用されている最も一般的な形式、それが「立礼焼-香(りつれいしょうこう)」です。立礼焼香とは、その名の通り、「立ったままの姿勢で礼をし、焼香を行う」作法のことを指します。椅子席が主流となった現代の葬儀会場において、参列者がスムーズに、そして滞りなく焼香を行えるように定着した形式です。この作法の最大の目的は、故人様への敬意と弔意を、定められた一連の動きの中で、静かに、そして美しく表現することにあります。その基本的な流れは、以下のようになります。まず、自分の焼香の順番が来たら、席を立ち、焼香台の手前まで進みます。この時、数珠を持っている場合は、左手で持つのが基本です。焼香台の数歩手前で一度立ち止まり、祭壇中央のご遺影に向かって一礼します。これが最初の礼です。次に、焼香台の前へと一歩進み、再びご遺影に向かって深く一礼します。そして、右手で抹香(まっこう)と呼ばれる粉末状のお香を少量(親指、人差し指、中指の三本で軽くつまむ程度)取ります。その抹香を、目の高さまで静かに掲げ(これを「おしいただく」と言います)、香炉の中の炭火の上に、そっと落とします。この一連の動作を、宗派の作法に従って1回から3回繰り返します。焼香を終えたら、祭壇に向かって合掌し、深く一礼します。その後、祭壇に背を向けないように、2〜3歩後ろに下がり、最後に、向き直ってご遺族の方々に深く一礼します。このご遺族への礼が、お悔やみの気持ちを直接伝える大切な瞬間です。そして、静かに自席へと戻ります。この一連の流れは、単なる手順ではありません。故人への礼、仏様への礼、そしてご遺族への礼という、三つの礼を通じて、私たちの弔意を多層的に表現する、洗練された祈りの形なのです。