葬儀に際して耳にする「お花代(おはなだい)」という言葉。この言葉には、実は、状況によって全く異なる二つの意味合いが込められています。この違いを正しく理解しておくことは、ご遺族側としても、また参列者側としても、失礼のない、適切な対応をするために非常に重要です。まず、一つ目の意味は、参列者がご遺族に対して、香典の代わりに、あるいは香典とは別に渡す「金銭」としての「お花代」です。これは、本来であれば供花(きょうか)という「お花」そのものを贈りたいところを、現金の形で代えさせていただく、という意味合いを持ちます。特に、ご遺族が香典を辞退されている場合や、キリスト教式の葬儀(香典という習慣がないため)などで、「御香典」という表書きが不適切な際に、この「御花代」という表書きが用いられます。また、後日、弔問に伺う際に、お供えのお花の代わりに少額の現金を包む場合にも使われます。この場合のお花代は、香典と同様に、ご遺族への弔意と経済的な扶助の気持ちを表すものです。そして、もう一つの意味は、ご遺族が葬儀社に対して支払う「費用」としての「お花代」です。これは、葬儀の際に祭壇を飾る「祭壇生花」や、棺の中に入れる「別れ花」、そして参列者からいただいた供花の代金などを指します。葬儀費用の見積もりの中では、「生花祭壇費用」や「供花料」といった項目で記載されます。こちらは、葬儀という儀式を荘厳に、そして美しく執り行うために必要な、具体的なコストとなります。このように、「お花代」という同じ言葉が、ご遺族にとっては「いただくもの」と「支払うもの」という、全く逆の立場から使われるのです。この二つの意味を混同せず、自分が今どの立場で、どのような意図で「お花代」という言葉を使っているのかを明確に意識することが、葬儀における円滑なコミュニケーションの第一歩と言えるでしょう。
葬儀における「お花代」とは何か、その二つの意味