「立礼」という、立ったままの姿勢で弔意を表す儀礼は、仏式の焼香に限ったものではありません。キリスト教式や神式の葬儀においても、それぞれ独自の「立礼」の作法が存在します。これらの儀式に参列する機会は仏式ほど多くはありませんが、その基本的な流れと意味を知っておくことは、いざという時に落ち着いて対応するための、大切な教養となります。まず、キリスト教式の葬儀で行われるのが「献花(けんか)」です。これは、仏式の焼香の代わりに行われる、故人への別れの儀式です。参列者は、順番が来たら席を立ち、係員から白いカーネーションや菊などの生花を、両手で受け取ります。この時、花が右手側、茎が左手側になるように持つのが一般的です。献花台の手前まで進み、まずご遺族に一礼します。次に、祭壇(ご遺影)に向かって一礼し、献花台へと進みます。そして、花の向きを、茎が祭壇側(自分とは反対側)になるように、時計回りに持ち替えます。これは、故人に花の正面を向けるという意味合いです。そして、その花を静かに献花台の上に捧げます。最後に、深く一礼(プロテスタント)または十字を切る(カトリック)などして祈りを捧げ、ご遺族に一礼して自席に戻ります。次に、神式の葬儀(葬場祭)で行われるのが「玉串奉奠(たまぐしほうてん)」です。玉串とは、榊(さかき)の枝に紙垂(しで)と呼ばれる紙を付けたもので、神様への捧げ物です。参列者は、神職から玉串を受け取ります。右手で根元を上から、左手で葉先を下から支えるように持つのが基本です。玉串案(台)の手前で、神職とご遺族に一礼し、案の前へと進みます。祭壇に一礼した後、玉串を時計回りに回転させ、根元が祭壇側、葉先が自分側になるように持ち替え、静かに案の上に置きます。そして、「二礼二拍手一礼」の作法で拝礼しますが、葬儀の際の拍手は、音を立てない「忍び手(しのびて)」で行います。最後に、ご遺族に一礼して自席に戻ります。どちらの儀式も、立ったままの姿勢で行う「立礼」形式であり、故人への敬意と、ご遺族への弔意を示すという、その本質は仏式と何ら変わるものではないのです。